一度イタルと別れ、家に戻ったゲーゼン。
「・・・ふぅ」
住み慣れた宿、生活に必要な最小限の物しかない部屋を見回して、溜息が一つ零れる。
「何で私、イタルの告白、受けたのかしら・・・?」
「私には痛みさえあれば。この身を焦がすような苦痛が有れば、良かったはずなのに」
実際に、イタルの事が好きなのかと問われれば、分からない。としか答えられない。 しかし、イタルの事が嫌いなのかと問われれば、それは違う。と、即答出来てしまうのだ。
「・・・クス、本当に、不思議ね。 好きかも分からない人のの告白を受け入れて、 結婚だなんて。クスクスクス・・・」
鎧を外し、固いベッドに躰を投げ出す。 天井のシミが見える。数は21だ。前に数えた。 視線を彷徨わせ、己の腕を見る。
「・・・。やっぱり、簡単には治らない、か」
いつも籠手を嵌めて隠している左腕には、古傷が刻まれている。 勿論、敵からの攻撃で受けた傷もあるが、その大半は。
「自傷癖、治ってから相当経つんだけど・・・やっぱり、深々と切っちゃったからかしらね。 全然癒えてないわ・・・」
傷跡を右手でなぞる。
「っ・・・」
背筋がゾクゾクする感覚。 痛みは無いが、むずかゆい。
「・・・イタルには、見られないようにしましょう。こんな疵痕、グロテスクだし」
・・・?
「・・・どうして」
どうして、イタルに見られたくないのだろう。
疵痕なんて人に見せる物では無い。そんな事は分かっている。 でも、特にイタルに見られたくないと思ってしまうのは、何故?
「ああ、もう。 寝ましょう。考えたってきっと分からないし・・・」
布団を被って上を見る。
起きたらご飯を食べて迷宮にでも行こうかしら。 ああ、そう言えば、前に迷宮に行ったとき、ゲームセンターの無料券貰ったんだっけ。 話の種に、行ってみましょうか・・・
ふっと薄っれる意識の中、ゲーゼンは
(あら?天井のシミ、増えてるわね・・・)
そんな事を思いながら、眠りについた。 |
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